江戸のワークライフバランス〜江戸時代の村人はいかにして休日を勝ち取ったか?〜

最近は人手不足ということもあって経営者は大変ですが、従業員にとっては待遇がよくなってきつつあるのかな?
という印象を受けます。
長時間労働で休日もないというような企業からは、人材がどんどん流出するようになってきています。
そして、ワークライフバランスという言葉もだいぶ普通に使う用語になってきました。
今回は江戸時代の人々のワークライフバランスについてのお話。
江戸時代の農村に暮らす人々の休日
以前に、江戸時代前半の人々は働けば働くほど稼げるようになったので、長時間労働をするようになったと書いたことがあります。
その結果、例えば宝暦3(1753)年の鳥取藩の領地の村人の事例だと、年間の休日は12日でした。
平均すると月に1回のお休みだけですね。
2015年のカレンダーの赤い日を数えると、お休みは123日なのでほぼ10分の1です。
でも江戸時代の後半になってくると、商品経済の発展もあって商売に成功する人がいれば失敗する人もでてきます。
結果土地を失い、日雇い労働者になる人が増えるようになりました。
個人事業主から派遣社員になるようなものです。
総中流社会から格差社会へと変わってしまったのです。
そうすると頑張ってもたいして給与が増えるわけではありません。
月1回の休みだけじゃやってらんない!
となっていくのです。
結果、鳥取藩の領地での事例でいうと、休日は寛政8(1796)年には年間30日までに拡大します。
この拡大は祭礼の拡大という形で基本行われました。
加賀藩領の休日は2種類
江戸時代の加賀藩の領地内では、村の休日は遊び日と休日に分けられました。
遊び日とは祭や年中行事のこと、それ以外に休日が別に設けられたのです。
ちなみに寛政12(1800)年の加賀藩の新川郡(富山県)の事例では、遊び日は年間34日・休日は9日の計43日でした。
そして、のちに毎月10日、20日、晦日(月末)の3日が定休日になっていきます。
興味深いのは、藩の法律には村の休日についての規定が見当たらないのだそうです。(参考文献の出版時点)
(今も見つかっていないのなら)あくまでも村の人々が、自分たちで設定した定休日が加賀藩の領地の広いエリアに広がったことになります。
全国で最も休日が多かった藩は仙台藩(伊達藩)
ちなみに全国でもっとも休日が多かったのは仙台藩だと言われています。
仙台藩の休日は80日。
月に6日程度の休日があったことになります。
現在でもサービス業なら万々歳なレベルの休日があったのです。
ではなぜ仙台藩の村人は休日が多かったのでしょうか?
その原因は飢饉が多かったからではないか?
といわれています。
歴史人口学の速水融さんによると、江戸時代の日本は普段は微増だった人口が飢饉のたびに減少していたのだそうです。
そして江戸時代後半の飢饉は気温低下による冷害の影響が大きかったため、飢饉の影響は東日本とくに東北を直撃していました。
結果、江戸時代後半の日本の人口は日本全体で見れば横ばいだったのですが、西日本や北陸は微増、中央日本は横ばい、東日本の人口は減少という内訳だったのです。
つまり、人手不足です!
現在も少子化により少しずつサラリーマンの待遇改善が進んでいます。
企業の人事の方によると内定辞退も多く、
「どうすれば内定辞退を防げるのか?」
というテーマはかなり深刻なのだそうです。
ちょっとでもブラック企業だという噂がネットで流れれば、その傾向は加速します。
まさに、江戸時代の東北もそのような状況になっていたのです。
結果、仙台藩がもっともワークライフバランスの整った地域となりました。
私たちは東北といえば、もっとも過酷な労働に耐えていた地域という思い込みがありますが、江戸時代後半に限って言えば、このような側面もあったのです。
誰がどうやって休みを勝ち取ったのか?
では、誰がどのようにして休みを勝ち取ったのでしょうか?
その主体は若者や下人(使用人)たちです。
*ここでいう下人というのは使用人というような意味ですが、現在のイメージと照らし合わせるならば派遣社員や契約社員、アルバイト・パートさんというイメージが近いと考えます。
加賀藩の法令には、
「彼らが村役人の家に大挙して押しかけて休みを要求し、満足のいく答えが得られなかったら乱暴狼藉を働くのでよくない!」
といった内容のものがあります。
江戸時代の村人たちのワークライフバランスは、若者や弱い立場の人たちが(やり方の是非はともかく)声をあげて勝ち取ったものだったのです。
そして雇用主や藩は、このような働くことを拒否する人材をいかに使いこなして経営をするのか?税金をとるのか?という課題をつきつけられることになるのです。
主な参考文献
古川貞雄『村の遊び日ー休日と若者組の社会史』(平凡社、1986年)
速水融『歴史人口学の世界』(岩波現代文庫、2012年)
『週刊新発見!日本の歴史 江戸時代7』(朝日新聞出版、2014年)
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