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【歴史トーク】江戸のUIターン奨励政策と遠山の金さん

歴活代表の安藤竜(アンドリュー)です。

以前、江戸時代の後半も現在と同じように、人口が江戸に一極集中し地方の農村の人口が減少していたこと。

そして農民出身の二宮尊徳が、地方の人口減少という問題に対してどう考えていたのか?

という記事を書きました。

【歴史思考経営】二宮尊徳が語る地域の人口減少への対処法とは?

では江戸時代の為政者は、この問題に対してどう考え、どう対処しようとしたのでしょうか?

今回はそんなお話です。

 

きっかけは天明の飢饉

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江戸時代後半、最初に大きく人口問題が取り上げられたのは松平定信が主導した寛政改革の時期でした。
松平定信が老中に就任する前に起きた天明の飢饉。
これによって農村は荒れはて、江戸に職を求めてやってくる農民が続出しました。

このことは、幕府にとっては二重に問題のある事態でした。

農村が米が作られなくなるため年貢(税収)が減少するのに対して、炊き出しなどの民衆保護政策の必要性(福祉予算)が増大したからです。

そのため、寛政2年11月から3回に渡って触れられたのが旧里帰農奨励令

江戸時代におけるUIターン奨励政策でした。

内容は、

1、江戸から故郷に帰りたくても旅費がない者、帰っても食費や農具の代金などがない者には幕府が費用を3両(1両=30万円が目安)支給する

2、故郷以外の土地で百姓になりたい者は、旅費・食費・農具代・田畑を与える

という、現在も各自治体で行われているような移住支援制度でした。

 *最近の移住支援制度についてはこちらを参照してください
  一般社団法人移住・交流推進機構
 「 移住っていいことあるんだ!!知らないと損する全国自治体支援制度8496<2016年度版>」

しかし残念ながらこの旧里帰農奨励令、ほぼほぼ希望者はいませんでした。

当時の江戸は人不足で賃金がどんどん高騰していたからです。
百姓として苦労して一から農業を始めるよりも、簡単に稼げる環境が江戸にはあったのです。

まさに『年収は「住むところ」で決まる』という状況が江戸時代にもあったのです。

時の北町奉行小田切直年は失敗の原因をこう振り返ります。

支援金額が少なすぎた!

故郷までの旅費、田んぼ1町歩、家の新築補助3両、家財道具代3両、農具代3両、農作物の収穫までの食料1人1日米1升、肥料代3両、年貢(税金)免除5年。

これくらいの支援制度は必要だった。

しかし、そんな金は幕府にはありませんでした・・・

 

天保改革でもう一度チャレンジ!

その後、一時あきらめられていたのですが、そこに天保の飢饉が襲いかかります。

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天保の飢饉の発生でさらに農村が荒廃する現状を見て、時の老中水野忠邦は再度江戸から農村に人を戻そうと江戸町奉行に意見を求めます。

これが「人返しの法」と呼ばれるものです。

しかし、この法律。教科書などには実際に出された法令のように思われていますが、実際は議論されただけで出されることすらありませんでした。

それはなぜでしょうか?

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ときの北町奉行遠山の金さんの反対があったからです。

遠山の金さんは言います。

・地方からきた農民は、都会的なライフスタイルに慣れると貧しい農村に戻る気は起こらない。家庭を持ってしまったものはなおさらである。

・また故郷の農村に戻してしまうと、武士が雇う奉公人が不足して労働者の賃金が高騰しインフレになってしまう。

この2つの理由から、江戸から農村にUIターンさせるのは非常に困難であると主張しました。

なぜ金さんは反対したのでしょうか?

それは天保改革の「人返しの法」は、寛政改革の時とは違う考え方で行われようとしていたからです。

松平定信の寛政改革の際は、農民が自主的に故郷に帰るためのUIターン支援だったのですが、天保改革の「人返しの法」は、故郷に強制送還させる法律として意見が求められました。

水野忠邦は、

農村の復興のためには江戸の町はどうなっても良い!

という意見の持ち主でしたので、町奉行である遠山の金さんとしては反対せざるを得なかったのです。

そして代替案として出されたのが、そもそも江戸に人口が流出しないための政策の提案でした。

・地方の農民が、江戸に出稼ぎに出るには村役人の許可証が必要だということにする。
・許可証が無い者には江戸の家主は住居を貸してはならない。
・年一回の人別改め(世帯調査)を徹底的に行うこと。

結果として、水野忠邦は遠山の金さんの意見を受け入れ、UIターン奨励政策としての「人返しの法」は出されることなかったのです。

老中の水野忠邦は現在で言えば安倍首相、町奉行の遠山の金さんは小池都知事だと思ってもらえるとイメージしやすいと思います。

遠山の金さんは都知事の立場から江戸の都市民を守るため、強制的な「人返しの法」を撤回させました。

しかし結果として、農村へのUIターン奨励策が江戸幕府として行われることはなくなるのです。

 

主な参考文献

藤田覚『遠山金四郎の時代』(講談社学術文庫、2015年)

藤田覚『天保の改革』(吉川弘文館、平成元年)

平川新「文政・天保期の幕政」(『岩波講座日本歴史第14巻近世5』岩波書店、2015年)

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