法船寺のネコ。能登より援軍を得て怪ネズミを退治す(金沢の怪異・怪談シリーズvol.1)

漢なネコの話。
時は江戸、8代将軍徳川吉宗が世の中を治めていた頃。
現在の長町武家屋敷跡より少し犀川よりに歩いたあたりに法船寺という寺があった。
この頃、寺はネズミによって荒らされ、大事な仏具も食い荒らされる始末。
住職は困りはてていた。
ある日。住職は飼っていたネコにぼやいた。
「動物には心がないというけれど、私の言う事を聞いてくれ。ネコはネズミを獲るというからお前を飼っているのだ。なにもしないなら何のためにお前を飼っているのか」
ネコはただ、黙って立ち去るのみであった。
その日の夜。なんと住職の夢枕にそのネコの姿が現れる。
言うには
「今日の住職のお説教は心にしみました。言い訳などありません。でもこの寺にいる老ネズミは私の力が及ぶような相手ではありません。というか、あのネズミを捕らえることができるネコなど金沢にはおりません。ただ能登鹿島郡のどなたかの家で飼われているネコのみが、その器のネコだろうと思われます。彼を連れてきてともに戦いたい!」
そうネコが語ったところで、目が覚めた。
その夜から、ネコの姿は見当たらない。
2日ほどたって見慣れないネコとともに帰ってきた。
その夜にもネコが夢にでる。
「この間のネコを誘ってきました。ぜひもてなしてやってください。明後日は必ず例の老ネズミをつかまえましょう。そのときは護衛の人を出して我々の手助けをしてください」
そう告げて去った。
住職は慌てて魚を購入し、2匹のネコに与えた。
さて。その日が来る。
仏殿の天井に2匹のネコは飛び上がり、にぎやかに駆け回る。
「さあ、いまこそあのネズミをつかまえましょう!」
と、寺の使用人2人は棒をもち、ハシゴをかけ、声を殺して待ち構える。
そのうちにも2匹のネコはますます勢いにのって戦っている。
とうとう、大きさがネコよりも大きな老ネズミを狩り出し、もみくちゃになりながら噛み合っていたが、もはや勝負あった。老ネズミの力は尽き、天井から転び落ちた。
助力の使用人たちは老ネズミを取り囲み、なんなく退治することに成功したのだった。
さて、2匹のネコだが、破損した天井から下を睨みながら、立ちすくみ死に絶えていた。
老ネズミと食い合って、その毒気にあたってしまったのだろうか。
住職への義に死んだネコを憐れんだ住職は2匹のネコを手厚く葬るのだった。
*『金澤古蹟志』第8編巻21より。原文はこちら
古地図アプリ「古今金澤」で撮影。ちゃんと寛文金沢図にも「法船寺」の記載がある。
*古地図アプリ「古今金澤」についてはこちらから
長町武家屋敷跡からほど近い、片町スクランブル交差点から海側へ歩いて10分程度のところに法船寺はある。
こちらが法船寺。
お寺の門が格好良いと思う。
浄土宗のお寺で、ご本尊は奥州平泉の中尊寺にもともとあったものらしい。
昔はその名も宝船路町。法船寺からとった名前だったんだね。
お参りをしてから。
左手にある墓所の方へ向かう。
わかりにくいだろうが、墓所の入り口にあるこれが猫塚である。
このように「義猫塚」とある。
一宿一飯の義理で命を落とした2匹のネコ。
とくに能登からわざわざ来たネコは、本当に1回魚食べさしてもらっただけだからね。
「オラより強いやつがいるなんて、ワクワクすんぞ!」
みたいなネコであったことを願いつつ、安らかに眠れますようにと祈りを捧げるのであった。
文責:安藤竜(アンドリュー)
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