田沼意次は江戸幕府をどう立て直そうとしたのか?(前編)(伊藤若冲・与謝蕪村の時代)

2016年は画家の伊藤若冲や与謝蕪村が生誕300年だったのだそうです。
彼らが活躍した時期の文化を宝暦・天明文化といいますが、この時期は江戸時代でいうと田沼時代という時期にあたります。
田沼時代とはいったいどのような時代だったのでしょうか?
まず田沼意次という人ほど、まっぷたつに評価が分かれている人も珍しいんじゃないかと思います。
ひとつは賄賂政治家のイメージ。
商人を優遇していたことで、商人の力が強くなり賄賂が盛んな乱れた世の中になったという理解です。
もうひとつは商業政策の専門家のイメージです。
農業より商業を重視したことで、華やかな世の中をつくったという理解です。
池波正太郎さんの小説『剣客商売』に出てくる田沼意次はこちらのイメージかなと思います。
どちらも決して間違いではありません。
でもここでは、その2つの理解をもっともっと深めてみたいと思います。
田沼時代の期間
まず、そもそも田沼意次が活躍したのはいつ頃のことでしょうか?
田沼意次が活躍した時期のことを田沼時代とよく言います。
そして田沼時代は、江戸時代のちょうど真ん中にあたる徳川吉宗の行った享保改革のあと、主に10代将軍徳川家治の時期にあたります。
*徳川吉宗の享保改革については、以前の記事を参照してください
【歴史トーク】享保改革の時代とは?〜徳川吉宗・大岡越前の時代〜(前編)
具体的には田沼意次は、宝暦8(1758)年頃から幕府の政治をリードし始め、天明元(1781)年に幕府の政治の全権を握るようになります。
そこから天明6(1786)年に10代将軍徳川家治が亡くなって、老中を罷免されるまでの期間。
いわゆる宝暦・天明期と呼ばれる時代がほぼ田沼時代と呼ばれています。
時代背景について
5代将軍綱吉の時期、元禄時代以降に江戸幕府の財政赤字は膨れ上がります。
原因は収入の減少と支出の拡大です。
その問題に対して、徳川吉宗の享保改革では行政民営化を進めたり、年貢率をアップさせるなどの対応で財政再建に成功します。
しかし問題がありました。
幕府の財政は再建できましたが、農民の負担が非常に大きくなったのです。
そんな折、享保17年(1732)に西日本一帯にセジロウンカが大発生、享保の大飢饉が起こります。
その後も東北を中心に、ヤマセによる冷害で宝暦の飢饉が発生するなど飢饉が多発します。
農民にとっては年貢が増えた上に農産物の収穫量が激減したので、年貢が払えなくなり、仕方なく自分の土地を売り払い、都市へ出稼ぎにでるようになります。
しかし都市にも仕事がありません。
結果として都市にはスラムが発生するようになりました。
また逆に、この状況を絶好の機会ととらえ、土地を安値でかき集める人も現れます。
だれもが田畑を持ち、一所懸命農業に励めば幸せになれた総中流時代は崩壊、経済的中間層が減少し、上流と下流に大きく分かれるようになりました。
格差社会の到来です。
田沼意次の政策
ではそんな格差社会が拡大する世の中で、田沼意次はどのような政策を行ったのでしょうか?
田沼意次の政治の特徴はまず積極的な人材登用、民間からの献策の積極的な受け入れです。
そして、田沼意次の政治のテーマは、
農民から年貢をどうやってとるのか?
ではなく、
年貢以外の方法でどうやって幕府の収入を増やすのか?
というものでした。
主な政策は以下の通りです。
・江戸・大坂商人に対して販売の独占を許す代わりに上納金をとる
・米だけでなく、商品作物(綿・菜種など)の栽培をすすめる
・新規商品の開発(朝鮮人参・白砂糖)
・鉱山の技術革新で銀・銅を増産
・俵物(あわび・フカヒレなど)や銅、朝鮮人参などを長崎から輸出
・海外貿易の販売先の拡大(ロシアとの交易を意図した蝦夷地の開発)
・印旛沼・手賀沼干拓事業
・新貨幣の発行によって、金と銀の両替率を変動相場制から固定レートに変更。
基本的には商業を発展させ、既存の商品の増産と新規商品の開発を進めました。
国内では江戸や大坂の商人に販売独占権を与え、上納金を納めさせます。
また江戸・大坂間の商業を発展させるため、江戸の金と大坂の銀のレートも変動相場制から固定レートに変更しました。
国外では長崎を通じての海外輸出の増加を図りました。
そして中国・朝鮮・オランダのほかに、新しい交易先としてロシアをターゲットに蝦夷地(北海道)を開発しようとしました。
これまで商人からは不動産の間口の広さに応じた税金や、橋などの工事の際の費用を負担させるといった形での税収しかありませんでした。
しかし田沼意次は江戸・大坂の大商人らが儲けやすいように彼らを規制で守り、その代わりに法人税を納めさせるという新しい形の税収を獲得したのです。
文責:安藤竜(アンドリュー)
主な参考文献
田家康『気候で読み解く日本の歴史』(日本経済新聞出版社、2013年)
辻善之助『田沼時代』(岩波文庫、1980年)
深谷克己『田沼意次』(山川出版社、2010年)
藤田覚『田沼意次』(ミネルヴァ書房、2007年)
藤田覚『田沼時代』(吉川弘文館、2012年)
藤田覚『近世の三大改革』(山川出版社、2002年)
佐々木潤之介『幕末社会論』(塙書房、昭和44年)
中井信彦『転換期幕藩制の研究』(塙書房、昭和46年)
高橋啓『近世藩領社会の展開』(渓水社、2000年)
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