江戸時代の新入社員も3年で辞めたのか?〜商家奉公人の退職事情〜

歴活代表の安藤竜(アンドリュー)です。
近年、苦労して会社に入った新入社員が3年以内で辞めてしまうことがとても問題になっています。
私自身も前職は8年くらいいましたが、最初に入った会社は3年、その次は2年で退社しました。
厚生労働省の発表によると、
大卒新卒者が3年以内に離職してしまう割合は約3割。
中卒の新卒者の3年以内の離職率は7割。
高卒新卒者の3年以内の離職率は5割となっていて、新入社員の退職率のことを、
『七五三』
と呼んだりもするのだとか。
それで、とかく最近の若者は・・・
みたいな話になりがちなわけですが、であればついつい思っちゃうのが、もっともっと昔の時代ってどうだったの?
ということです。
そこで、今回は江戸時代の新入社員(商家の丁稚さん)〜若手社員(手代クラス)の労働事情について、主に西坂靖さんの研究を基に紹介してみたいと思います。
三井越後屋・京本店の離職率
三井越後屋・京本店の住み込みの奉公人数は、元治元(1864)年3月の時点で103人いました。
その内、お店で働いている人は79人だったのですが、この方たちの定着情況から見てみましょう。
7年後の明治4(1871)年1月のデータがあります。
ここで、彼らの情況を見てみると・・・
1、京本店で住み込みで働いている人 12人
2、別宅手代になって働いている人 9人
3、他の店舗に転勤になった人 6人
4、退職した人 52人
離職率65.8%
なかなかの数字です。
そもそも、この時期は世の中全体が不況だったためお店の売上が激減し、越後屋京本店もリストラをしなくてはいけない時期だったのではありますが、それにしてもすごい数字です。
退職者の7割が若者
退職した52人のうち、若手社員といってもよい平手代(ひらてだい)以下の役職で辞めた人数は38人で退職者のうちの73%。
そして38人のうち、23人の退職理由が記録に残されています。
どんな退職理由だったのでしょうか?
ちなみに現在は、厚生労働省の平成21年の調査によると、
1位 自分の希望する仕事ではなかったから
2位 能力・実績が正当に評価されなかったから
3位 給与・報酬が少なかったから
なのだそうです。
江戸時代、三井越後屋京本店の若手社員退職理由ランキング
では、江戸時代の若手社員の退職理由ランキングをみてみましょう。
まずは、
第3位
病気による退職
第3位は、病気による退職で4人。
退職理由の17.4%を占めました。
そのうちの1人は店で病死しています。
速水融さんによると、当時は住み込みの場合、衛生面でも食事でもあまりよくないので、病気は結構多く死亡率も都市部は農村に比べて高かったらしいです。
第2位
「相続筋」による退職
「相続筋」による退職者は8人。34.8%でした。
「相続筋」による退職というのは、実家や親戚の家業を継ぐために奉公をやめることです。
私の前職であるコンビニエンスチェーンでも、コンビニのオーナーさんの子供さんが本部に多く入社しており、お店を継ぐために退社する事例は結構あり、前向きでどちらかというとめでたい退職理由といえるでしょう。
これらの人たちは、越後屋に終身雇用を求めていたのでなく、いずれ家業を継ぐための修行の場として越後屋に就職していたのです。
そして、第1位は!
第1位
「不埒之儀」「家出」による退職
「不埒之儀」「家出」による退職は11人。
なんと、47.8%。
退職理由の半分弱を占めました。
ようは懲戒解雇ですね。
しかも、このうち4人は家出(お店から逃亡)して帰ってこないというような状況でした。
その具体的な内容は不明ですが、林玲子さんの白木屋江戸店の研究によると、
江戸時代の奉公人は基本的に給料は出なくて、退職してからの独立資金として勝手に貯められてしまい、自由に使えるお金がなかったんだそうです。
そのため商家では、遊びたい盛りの若手社員による使い込みや、商品の横流しなどが多発したのだとか。
そのお金の使い道は、丁稚くらいのまだ小さいうちは買い食い程度の可愛らしいものなんですが、ある程度の年齢になると、女性がらみがほとんどで、服を買ったり、遊女と芝居を見に行ったり、プレゼントを贈ったりなどになってきます。
私の前職の同僚にも、キャバ嬢に入れこんで月給の大半を貢いでいる男がいましたが、現在のサラリーマンと違って当時の奉公人は小遣いをもらえないので、このような事態が多く発生しました。
あまりに問題なので、越後屋などの大店では小遣いを渡しているところもあったようですが、なかなか難しかったようです。
お金じゃない!とは言いますが、やっぱり最低限のお金って大事だなと思わされる結果だったように思います。
みなさんはどう思われましたか?
主な参考文献
西坂靖『三井越後屋奉公人の研究』(東京大学出版会、2006年)
林玲子『江戸店犯科帳』(吉川弘文館、昭和57年)
速水融『歴史人口学の世界』(岩波現代文庫、2012年)