万歳(バンザイ)の起源

選挙で当選が決まるたびに、行われている万歳(バンザイ)。
それ以外でもウルフルズの曲に「バンザイ〜好きでよかった〜」という曲があったり、本当に嬉しい事があると結構みなさんもやることが多いのではないでしょうか?
しかし、この万歳(バンザイ)。
改めて考えると結構不思議な仕草です。
この万歳(バンザイ)は一体いつ頃始まった行為なのでしょうか?
万歳(バンザイ)の起源は明治時代
大日本帝国憲法が発布された明治22(1889)年2月11日に行われたのが最初だと言われています。
なぜ、この日に万歳(バンザイ)が生まれたのでしょうか?
ことの始まりは憲法発布の1月前、天皇の馬車に向かって沿道に整列した生徒が「君が代」を唄うという光景が生まれたことでした。
これすごい美しいじゃないか!
となったわけですが、それに対して大人はというと、単なる見物人としてわいわい詰めかけるだけで大騒動。
これはいかん!
このままでは憲法発布という国家の一大イベントでも、格好悪いとこを諸外国に見せることになってしまう!
となったわけです。
では、大人にも「君が代」を唄わせればよいわけですが、「君が代」は小学校で教えはじめたばかりで、大人はそんなの知らないから唄えません。
そこで、練習しなくても誰でも一斉にできるアクションとして作られたのが、「万歳(バンザイ)」だったのです。
本来、天皇の慶事に「万歳」と唱える事は古代にもあったのだそうです。
しかし、このときの読みは「バンゼイ」でした。
雅楽の「万歳楽」の「まんざい」と混同されるのを防ぐためです。
また、中世以後は「称万歳」という文書に書いてあっても、「ええ」「おお」といったかけ声をかけるだけでした。
では、何かみんなで叫べばいい。
でも、何て叫べばいいの?
困ってしまいました。
万歳(バンザイ)に決まるまで
まず最初に提案されたのは、「奉賀(ほうが)」でした。
「ほうが〜」
と、みんなで叫ぶのです。
でも、これは問題がありました。
何回も連呼すると、
「(あ)ほうが〜」
と聞こえるという大問題です。
その後、紆余曲折があって、「バンザイ」案が承認されるのですが、その後も
「天皇の前で大声を発するなど不敬極まりない!」
といった反対意見もでました。
しかし時の文相、森有礼(もりありのり)は、「声」であったり、多勢の者が一斉に「バンザイ!」と叫んで手をあげるという行為の重要性を認識しており、反対意見を押し切って、大学などで学生を集めて特訓します。
結果、憲法発布の日に
「天皇陛下万歳!」
と民衆が一斉に大声を出して両手をあげるという演出を取り入れることで、これまでのような傍観者ではなく参加者意識が民衆に生まれました。
お祭りに行っても、ただただ出店をひやかしていて見物していた人が、御神輿をかつがしてもらえたようなものです。
もう一体感がたまらないのです。
その後、この万歳(バンザイ)は日清・日露戦争の壮行会や祝勝会などで行われ、日本の連戦連勝の「お祭り」の参加者としての意識を民衆に持たせ、近代社会の弱者である民衆に「強者の一員としての我ら」という意識・自尊心を与えてくれる素敵なパフォーマンスとなりました。
この万歳(バンザイ)の発明により、これまで天皇や国家に関してはまったく無関心だった明治時代の民衆が少しずつ国家というものを意識し、自発的に「国民」になっていくのです。
近年注目の動き
近年、君が代を強制的に唄わせようという意見が出たりしますが、うまくいかないようです。
それは「お祭り」の要素が欠けているからなのではないでしょうか?
若者の選挙の投票率が低いのも同様です。
若者に御神輿をかつがせていないのに、投票するわけがないのです。
そこで近年、個人的に注目なのは社会音楽家のフェスです。
音楽であったり、祭り気分で一緒に叫ぶ行為によって世の中を変えるという行為は(その内容に関しては意見が分かれる所だと思いますが)明治時代から取り入れられ、ご存知のようにとてつもない成果を出してきました。
何か新しいムーブメントが起こるかもしれません。
参考文献
牧原憲夫『客分と国民のあいだ〜近代民衆の政治意識〜』(吉川弘文館、1998年)