【歴史思考経営】海保青陵とダニエル・ピンクの営業論

歴活代表の安藤竜(アンドリュー)です。
経営や自己啓発などで常に最先端のことを学ぶことは大切ですが、たまには古典に学ぶことも有意義です。
なぜなら時代は違っても、世の中の状況が似通っている時代の古典には驚くほど最先端の内容とリンクする内容が見受けられるからです。
今回は江戸時代後半の儒学者である海保青陵とアル・ゴア元副大統領のスピーチライターを務めたダニエル・ピンクの主張が非常に似通っているのではないか?
というお話です。
海保青陵の世の中の認識
海保青陵とは江戸時代後半を生きた儒学者であり、加賀藩などの財政再建に貢献した経営コンサルタントでもあった人です。
彼は江戸時代の後半の世の中をこう語ります。
「銭金ノ働ク事、今ノ様ナル事ハ古今ナキ事ナリ。(中略)上ヨリ下マデミナ売買ナレバ、ミナ商人ナリ。」(「善中談」)
今の世の中は、かつてないほど金銭の浸透した時代である。すべての人がなんらかの売買を行っているという意味では、すべての人が商人である。
という意味です。
しかし当時の人々は、その認識がありませんでした。
藩政改革を成し遂げた名君だと賞賛される熊本藩主の細川重賢の言葉です。
「大名大勢ナレ共、(中略)己レガ経済ヲ心配スル人モ見へ申サズ。只ウカウカト家来アヅケ二シテ、驕奢ノ事ノミ心ヲユダネテ居ラルル(下略)(「善中談」)
細川重賢によれば、
「大名はたくさんいるがみんな財政再建からは目を背け、ただ家来まかせにして自分の贅沢のことばかり考えている」
という状況だったのです。
このように、当時は商売を卑しい行為だと考える風潮が主流だったのです。
しかし海保青陵はそうではなく、すべての人が商人だという認識を持たないといけないという考えを持っていました。
世の中を良くしようと考えるのならば、細かい金銭の出入りや売買の複雑な実態を学ばないといけない!
自分自身を商人であると認識することで、自分自身が自分を取り巻く状況の主人公、主体になることができるのだと主張するのです。
ダニエル・ピンク『人を動かす新たな3原則』(原題「To Sell is Human」)から
ダニエル・ピンクの著書の原題「To Sell is Human」を直訳すると「セールスは人である」。
まさにダニエル・ピンクは人間の本質はセールスだと言っており、まさに海保青陵と同じことを言っているのです。
今の時代はだれもがセールスマンであり、「売らない売り込み」を行っている。
人はたとえ販売業に従事しなくても、かなりの時間を広い意味での売り込み(他人を説得する、他人に影響を与える、他人を納得させること)にあてているのだと。
そして本書では、
いかに売り込みをしないで売上を上げるのか!
というテーマについて述べられます。
*ダニエル・ピンクについては、こちらのTEDトークも参照してみてください
現在も、一時のホリエモンに代表されるITバブル時代の風潮の反省からか、営業(売り込み)という言葉を嫌う人は多いです。
しかし海保青陵が
すべての人は商人である。
と言ったように、私たちが自分の人生を自分自身で切り開くには営業(売り込み)は欠かせない要素です。
その認識において、海保青陵とダニエルピンクは時代も国も異なりますが、まったく同じ見解を持っていたのです。
参考文献
徳盛誠『海保青陵ー江戸の自由を生きた儒者ー』(朝日新聞出版、2013年)
ダニエルピンク『人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する』(講談社、2013年)