鯨一頭七浦光る。鯨一頭のお値段とは?〜奥能登国際芸術祭にからめて〜

石川県珠洲市では今現在、奥能登国際芸術祭2017が開催されています。
11の国と地域から39組のアーティストが参加。
珠洲市の歴史、文化をモチーフにした作品が楽しめます。
*奥能登国際芸術祭2017のホームページはこちら
これらの作品を見ていると、漂着物に着目した作品がやはり多いなあと思ったんです。
そして、海辺で漂着するもので最も大きいのが難破船と鯨です。
*小山真徳「最涯の漂着神」
*坂巻正美「上黒丸北山鯨組2017」
小山真徳さんの作品や坂巻正美さんの作品はまさにそれがテーマとなっています。
とくに鯨は「鯨一頭で七浦光る」と言われ、海沿いの村(浦)にとってはまさに宝でした。
でも、なぜ「七浦」なんでしょうか?
なんとなく「七」という数字が語呂が良いというのではなく、じつはちゃんと根拠があるのです。
今回はそんなお話です。
なぜ鯨一頭で七浦がうるおうの?
根拠は加賀藩の法令にあります。『藩法集6続金澤藩』という本のなかに「浦方御定」という規定集があります。
そのうちの「三ヶ国浦方江寄鯨有之刻、割符仕様御定覚」という規定がまさにそれなのです。
一、鯨寄り居村江、十歩之図りを以、五歩可被下事
一、右居村、浜ならび両脇三ヶ村宛六ヶ村江、二歩宛可被下
但、三ヶ村続無之二ヶ村有之候ても同前之事
一、右、居村近所里方三ヶ村江壱歩宛可被下事
右之趣、被仰出候條、下得其意候、鯨寄候て御在国之時分は早々小松江
可申上候、御留守之刻ハ此方江可及案内者也承応二(1653)年 御印 二月十五日 横山右近
奥村河内
能州浦方
十村中
これは、加賀藩の家老クラスの人が能登の浦方(海沿いの村)を担当している十村(村の庄屋さんを10人程度束ねていた人)にあてた文書です。
これを見ると、
1、鯨が流れてきた村には、(利益の)10割のうち5割が与えられる。
2、その村の海沿いに両脇にある3村ずつ計6村は、3村につき2割ずつ計4割が与えられる。
3、残り1割は海沿いでなく里方面に接している3村に与えられる。
つまり、こういうことですね。
このように、海沿いにある7つの村に鯨の利益が配分されたので、七浦がうるおうとなったのです。
ちなみに面白いのは最後の2行で、鯨が流れてきたら必ず藩主に報告するように命令されています(この史料では小松城で隠居政治をしていた藩主の父の前田利常が対象)。
そして各行必ず「可被下」とあります。
これはつまり鯨が流れてきたらその鯨は藩主のもの。
そして殿様のお慈悲で村へ与えられるという形がとられていたことが、ここからわかるのです。
*このあたりの事情は高木昭作さんの「『将軍の海』という論理ー鯨運上をてがかりとしてー」(『水産の社会史』1部2章、2002年、山川出版社)を読むと面白いです。
鯨一頭は結局おいくらなの?
では実際のところ鯨って一体おいくらくらいなの?
これは知りたいところではないでしょうか。『能都町史第5巻』という本に、そのヒントがありました。
天明8(1788)年11月14日。
6尋3尺(約10m程度)の鯨が湾へ入り、翌15日に獲れた鯨を宇出津の茂左衛門が751貫(約5640万円)で購入した。
とあります。
*1尋=大人が両手を広げた長さ。5か6尺で使われる。ここでは5尺で計算しておく。
*1両=4貫。1両=30万円で計算。
1両の現在価値については日本銀行貨幣博物館のページを参照。
なんと鯨1頭が現在価値にして、5000万円以上で売れているのです!
流れてきた村で2800万円、隣の村でも376万円の臨時収入です。そりゃ嬉しいですね!
でも、なんでそんなに高く売れたんでしょうか?
確かに大きいけど、江戸時代の人ってそんなにみんな鯨の肉が好きだったの?
そんな疑問が残ります。
なんでそんなに鯨は高く売れたの?
じつは鯨の利用法は肉を食べるだけではありませんでした。
鯨の利用法は肉を食べることよりは、どちらかというと皮脂を使った鯨油の価値が高かったのです。
鯨油は光を灯す油として利用されましたし、江戸時代後半は何よりも農薬として利用されました。
ちょうど8代将軍吉宗の時代です。
この頃、享保の飢饉が発生しました。
これは西日本を中心にウンカが大量発生し、稲に壊滅的打撃を与えたことが原因でした。
そして、このウンカを殺す方法として、鯨油を水面に注ぎ、その油膜でウンカを包んで動けないようにし、気門をふさいで窒息させる方法が発見されました。
以後、江戸幕府はウンカが大量発生するたびに鯨油での駆除を命じ、鯨油の需要はどんどん高まっていったのです。
文責:安藤竜(アンドリュー)
*タイトル写真の「鯨捕る図」は、石川県立図書館貴重図書ギャラリー「民家検労図」人21頁を参照してください。
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